山蚕(天蚕)にまつわるつづきのお話
これは人を介して伺った話である。江戸期に参勤交代で備前を通過する大名が天蚕の反物を求めてゆくのが慣例であったという話があるという、正否はわからないが。これは何を意味するかと言うと、戦国の世ではあるまいが鎧の下着に使われたというのである。天蚕の一つの特色に強さというものがある。要するに繭から取り出した繊維の強さである。この当時まだ製糸の技術は拙かったので、必然的に経糸も緯糸も太い糸が使われたと思うが、その糸でしっかりと織られた布は強靭な布になる。天蚕糸は強いと言われているが確かに強靭だ。この当時、ほかの繊維では比べる物は無かったろう。其の上に保温力の強さがある。
織を頼まれた方が、以前織っていただいた生地よりも丈夫そうな生地が欲しいと、残った繭を太い緯糸に曳いていただいたそうだ。その緯糸をもとに生地を織って欲しいということだった。経糸分の天蚕糸はすでにないそうなので、撚りの強い緯糸に合わせて経糸には、信州の家蚕座操糸を使い数種の経糸を作り織ることにした。
経糸のチキリ巻取りと3種の天蚕緯糸